はじめに

 前回は要件定義工程の位置づけや各プロセスの内容について概要を紹介しました。今回からは要件定義工程の各プロセスについて成功のためのポイントを紹介していきます。

前提として

まず前提として、要件には主に以下の特性があります。これらを考慮した上で要件定義工程を進めましょう。

特性1)要件が不足する

以前コラムで紹介しましたが、要件が足りずにトラブルに遭遇するケースが多くあります。

十分検討したつもりでも要件が不足しており、新業務や新システムを開始した後、トラブルに直面して結局元に戻す、という事例も少なくありません。集めた要件が必要十分か、抜け漏れはないか、を改めて確認するプロセスが必要です。

特性2)要件が膨らむ

こちらも以前コラムでも紹介しましたが、要件は当初想定よりも膨らむ特性があります。

要件の洗い出しはステークホルダーへのヒアリングを中心に進めていきますが、ステークホルダーにはそれぞれ立場があり、観点が異なるため、当然捉えている課題やニーズは異なります。また、要件定義工程が進むにつれ、漠然とした要望がより具体化され、新しい課題やニーズを思いつきます。その結果として、ヒアリングするたびに要件は膨らみます。なかには対立するものや他要件を内包するもの、当初目的とズレているものも出てきます。要件は膨らむことを認識し、要件確定前に整理する前提で進める必要があります。

特性1「要件が不足する」と特性2「要件が膨らむ」は一見矛盾しているようですが、「目的を明確に把握していない」という原因が共通しています。

目的については前工程である企画工程にて定義したはずですが、ステークホルダー全員が理解している訳ではありません。そのため、要件定義工程は進める側(企業内だと情報システム部等)が目的をしっかりと意識し、要件が必要十分か慎重に進める必要があります。

各プロセスの成功ポイント

ビジネス要件定義 A-1.現状把握

このプロセスでは、ドキュメント整理(作成や更新)の上、現行システムおよび業務について見える化し、ステークホルダーが現状把握できる状態にします。また、後工程である「課題やニーズの抽出」の為の準備でもあります。

成功ポイント1)見える化に際し、概略から詳細へ展開する

現行業務やシステムを把握するためには、詳細業務フロー等、資料の寄せ集めではなく、スコープを意識して俯瞰的に整理していくと効果的です。概略から詳細へ展開する様見える化すると、業務に精通していないステークホルダーの理解を促します。

成功ポイント2)整理したドキュメントは関係者間で共通認識を持つ

ドキュメント整理にあたっては分野毎に精通した担当者が行うほうが効率は良いですが、他の人から見ると理解できないものが仕上がる可能性があります。また、ドキュメント整理には時間がかかる場合も多く、いつの間にか整理自体が目的になってしまう場合もあります。

あくまで目的は「ステークホルダーが現状把握できる状態にすること」なので、整理したドキュメントについて関係者間でのウォークスルー等を行い、共通認識を持つようにします。

主なアウトプットとしては、ビジネスプロセス関連図、業務機能構成表、業務フローがありますが、それぞれの内容については別の機会で紹介するものとし、本コラムでは割愛します。

ビジネス要件定義 A-2.課題やニーズの抽出

このプロセスでは、ヒアリングを中心とし課題やニーズ(=要件の元になる情報)を洗い出します。上記の特性1,2が発生する原因プロセスになりますが、まず大事なのは要件不足を防ぐことです。

成功ポイント3)ステークホルダーを洗い出し、分析する

要件不足を防ぐためには、ステークホルダーを漏らさないことが肝心です。

ステークホルダーは対象業務、またはシステムに直接的、または間接的に関わる関係者であり、前プロセスの成果物「ビジネスプロセス関連図」にて洗い出した関係者となります。具体的には、現場担当者やシステム運用者、その上司、関連する取引先や顧客となります。

次に、洗い出したステークホルダーの影響度や関心度等を分析します。全てのステークホルダーに平等にヒアリングする時間は残念ながらありませんし、影響度の大きいステークホルダーの一言でこれまでのヒアリングが無駄になってしまうリスクもあります。ステークホルダー毎の影響度や関心度、対立・関連関係等を分析の上、ヒアリング順序や手厚さを検討すると効果的です。

成功ポイント4)真の課題やニーズを把握する

課題やニーズをヒアリングした際、具体的な対策手段(How)が提示される場合もあります。ヒアリングする側としては楽ですが、ここは気をつけるべきポイントです。「なぜその対策が必要なのか(Why)」「何を解決したいのか(What)」を把握していないと、次プロセスの「課題やニーズの分析」にて効果的な代替手段が検討できません。また、表面上は対立するニーズであっても、実は解決したい課題は同じ、という場合も多くあります。分析や代替手段の検討は次プロセスで行いますが、このプロセスではWhyとWhatをヒアリングし、把握することが重要となります。

なお、このプロセスでは特性2の「ヒアリングする度に課題やニーズが多くなる」についても発生しますが、まずは要件不足を防ぐことを優先とし、課題やニーズの情報収集に専念しましょう。

ただし、次プロセスで取捨選択するため、

  • あとで取捨選択することを予め伝える
  • 明らかに目的と違うもの、現実的に不可能なことはその場で断る

等の工夫は必要です。

次回コラムでも、引き続き「成功のためのポイント」を順次紹介していきます。