はじめに

前回に引き続き、要件定義工程の各プロセスについて成功のためのポイントを紹介していきます。

各プロセスの成功ポイント

ビジネス要件定義 A-3.課題やニーズの分析

本プロセスは以下2つのサブプロセスに分けて解説します。

  • A-3-1.課題やニーズの構造化
  • A-3-2.優先順位付け

A-3-1.課題やニーズの構造化

抽出した課題やニーズには、粒度も抽象度も異なるものが混ざっているため、ここで整理します。当初目的との関連を整理確認の上、重複しているものを排除したり、束ねて統合したりします。

成功ポイント6)構造化して当初目的との関係を確認する

前プロセスで抽出した課題やニーズは各ステークホルダーの思いが反映されている場合があります。それらは立場の違いで相反するものであったり、当初目的を達成するために必要十分では無い場合もあります。また、前回コラムにて紹介した特性2の「ヒアリングする度に課題やニーズが多くなる」も発生している状態です。

そこで、まず企画工程で策定した当初目的との関係を整理(構造化)します。構造化にあたっては、まず企画工程で策定した当初目的を最上位とし、前プロセスで抽出した課題やニーズのWhy、What、Howをその手段として紐付けていきます。

例)
企画工程での当初目的「コストダウン」
→ 課題やニーズのWhy、What(=上位目的達成の手段、下位手段の目的)「業務効率化」
  → 課題やニーズのHow(=上位目的達成の手段)「月次レポートの自動作成機能追加」

この段階でどうしても目的と紐付かない課題やニーズは残念ながら目的に合致していないと判断し、要件としては一旦除外します。要件棄却やその合意については「A-4.要件の合意・文書化」にて解説します。

成功ポイント7)手段→目的の妥当性を再確認する

下位の手段が上位の目的に対し効果がある、と判断できれば妥当と判断します。効果の有無については定量化が望ましいですが、この時点ではあくまで関係性が妥当か否かの判断で問題ありません。定量化による取捨選択はA-3-2.優先順位付けにて行います。

上記例だと、「月次レポート作成は現在人が手で作成しており、毎月残業が発生している作業量の多い業務」とヒアリングできていれば上位目的である「業務効率化」は妥当、と判断しても良いです。

なお、手段→目的の関係性確認は、問題解決手法におけるWhyのロジックツリーに相当します。

成功ポイント8)目的→手段の観点で妥当性を再確認する

上記とは逆に目的→手段の観点で妥当性を確認します。具体的には、上位の目的を達成するために下位の手段が妥当か(必要十分か)を再確認する作業となります。

上記例だと、企画工程の目的「コストダウン」について「業務効率化」が紐付いていますが、他手段としては「既存業務の廃止、統合」「人件費の削減」等々、様々考えることができます。成功ポイント5(他のHowがないかヒアリングする、前回コラム参照)にて局所的なヒアリングは済んでいるはずですが、ここで改めて再確認します。

なお、目的→手段の関係性確認は、問題解決手法におけるHowのロジックツリーに相当します。

A-3-2.優先順位付け

費用的/時間的制約の関係で、A-3-1.課題やニーズの構造化で洗い出した全ての手段を実現することは、現実的には難しい、というケースがほとんどです。限られたコストや工期の範囲に抑えるために、このサブプロセスで優先順位をつけ、手段の取捨選択を行います。

成功ポイント9)客観的な判断基準を策定する

判断基準は企業毎、プロジェクト毎に異なりますが、一般的には以下のような指標を用いて評価します。

・有効性・・・達成効果。目的に対してどれだけ貢献するか

・必要性・・・法制度対応、内部統制等の観点で対応が必要か

・実現性(費用面)・・・実現にむけた費用は現実的か

・実現性(その他)・・・人的/技術的に実現可能か

・緊急性・・・対応が必要な期日が迫っているか

成功ポイント10)KOFを探す

取捨選択の判断のコツとしてKOF(ノックアウトファクター)を探す方法があります。

KOFとは「他指標がどんなに優れていてもその手段を却下する要素」のことで、代表的なKOFとして実現性(費用面)があります。有効性等が効果大でも費用面であきらかに現実的ではない場合はその手段を却下します。

最初にKOFでふるいをかけておくと、以降の優先順位付けを効率的に進めることができます。

成功ポイント11)まずはざっくりと評価する

全ての手段に対して上記で紹介した指標等で定量的に評価すると、それだけで膨大な時間がかかってしまいます。そのため、まずは「効果大、効果あり、効果が少ない」等の分類で評価する事をお勧めします。まずはざっくりと評価し、取捨選択の境界上にある手段については、調査の上定量的に判断する手法が効率的です。

指標毎に評価した後、総合的にその手段を評価します。手段の総合評価としてはMoSCoW分析等を参考に3~5段階で評価する方法が一般的です。最後に、評価した手段について、費用や時間等の制約を念頭に取捨選択します。

なお、リーンスタートアップのように、最初は最低限実現し徐々に他手段を実現していく方法もあるため、一概に拾うor捨てるではなく、「今実施する」「今後実施する」「実施しない」に分けることも可能です。

次回コラムでも、引き続き「成功のためのポイント」を順次紹介していきます。

要件定義の進め方に興味がある方はぜひこちらもご覧ください。

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