Ascent GX10(DGX Spark ASUS版)導入レビュー:CUDA対応の128GB共有メモリAIマシン

NVIDIAが発表したDGX SparkプラットフォームのASUS版「Ascent GX10」を、社内のAI評価・プロトタイピングおよび開発環境として導入しました。

デザイン・運用性

Ascent GX10はコンパクトな筐体ながら、アルミ調の質感と洗練されたデザインで、オフィスのデスク上に置いても違和感がありません。高負荷時(例:gpt-oss-120B推論中)でもファン音が非常に静かで、周囲の作業環境を乱すことはありません。
本体は240WのUSB Power Delivery(PD)対応ACアダプタで駆動しますが、電源アダプタは本体とは別体です。USB-Cのみで構成されておりUSB-A端子はありません。キーボードやマウスを接続するときには注意が必要です。初期設定はWi-Fi経由で完結可能であり、利用時もネットワーク経由を前提とするならば物理的な接続はなくとも利用可能です。

初期設定と開発環境

起動時にAscent GX10はWi-Fiホットスポットとして動作し、接続端末のブラウザからWebインターフェースにアクセスしてネットワーク設定やユーザー登録などの初期構成を完了できます。 OSはUbuntuをベースにカスタマイズされた「DGX OS」を採用。CPUはAarch64(ARM64)アーキテクチャですが、CUDA 13が事前インストールされており、nvccをはじめとするCUDA開発ツールチェインが初期状態で利用可能です。さらに、PyTorchやTensorFlowについても、Aarch64対応の公式pipパッケージが公開されており、pip install でそのまま導入可能なバージョンが提供されています。AI開発を即座に開始する環境が整っています。

大規模ローカルLLMの対応

128GBの統合メモリにより、gpt-oss-120B のような100Bを超える言語モデルも、分割やスワップなしでロード・推論可能です。実際の使用ではメモリ使用量は約60%(70〜80GB)にとどまり、余裕を持って運用できます。
一方で、純粋なGPU速度という点は速いほうではありません。RTX 4090などのコンシューマ向けGPUはメモリ容量が少ないため大規模モデルには不向きですが、8Bや14Bクラスなどメモリに収まるモデルについては、そうしたGPUのほうが推論速度が速いケースがあります。
また、DeepSeek-R1 や Qwen-235Bのような商用サービスに近いモデルまで動作させるにはメモリが不足します。 Ascent GX10は「大規模モデルを省スペース・低消費電力で動かす」という用途に特化した選択肢となっています。

推論環境の構築

Ascent GX10は開発環境としてだけでなく、Ollama、OpenWebUI、ComfyUI といったLLMや画像生成の推論フロントエンドの導入にも適しています。
NVIDIAはDGX Spark向けに、これらのツールを 導入する標準手順を公式ドキュメントとして公開しており、手順に従えば比較的簡単に環境を構築できます。 ただし、2025年11月1日時点のNVIDIA提供手順には若干の課題がありました。
具体的には、DockerのBuildKit関連ディレクトリ(/var/lib/docker/buildkit)のアクセス権が適切に設定されておらず、ビルド時にエラーが発生するケースがありました。この問題は手動でディレクトリパーミッションを修正したりキャッシュを削除してしまうことで解消できる程度ですが、手順通りにはいかなかった箇所です。

競合機種

128GBの共有メモリを備えたAIデバイスはAscent GX10に限られません。
  • AMD Ryzen AI Max+ 395(Ryzen AI 395)搭載のWindows AI PCも128GBメモリを備え、価格はAscent GX10より安価な場合があります。
  • AppleのMacシリーズ(Mac Studio、MacBook Proなど)には最大512GBの統合メモリ構成も存在し、128GBモデルであればAscent GX10とほぼ同価格帯です。
しかし、これらの競合機種はいずれもCUDA非対応です。
現在のAIエコシステム、特にプロダクション級の推論・学習ワークフローは依然としてCUDAに強く依存しています。その点で、Ascent GX10は「大容量メモリ+CUDA対応」という組み合わせにより、既存資産の再利用性・ツールチェインの安定性・開発効率という点で明確な優位性を持ちます。

他ベンダー版DGX Spark

DGX Sparkプラットフォームは、ASUS(Ascent GX10)以外にもMSIなど複数ベンダーから提供される予定です。
ハードウェア仕様(CPU、GPU、メモリ)は共通ですが、プリインストールソフトウェア、ファームウェア、サポート内容、付属アクセサリ(電源、ハブなど)には差異が生じる可能性があります。

まとめ

ASUS GX10は、128GBの共有メモリ、静音性、卓上に置ける高級感あるデザイン、そして何よりCUDA対応という組み合わせにより、大規模LLMをローカルで安定運用したいニーズに応える実用的マシンです。USB-CのみのI/Oや別体の大容量電源といった実用上の注意点はありますが、それらを上回る利点があります。 競合機種はメモリ容量や価格面で魅力的ですが、既存のCUDAベースAI資産を活かしつつ、100Bクラスの大規模モデルを社内で安定して評価・プロトタイピングしたいチームにとって、Ascent GX10はバランスの取れた有力な選択肢と言えるでしょう