インダストリー4.0(Industry4.0)およびインダストリアル・インターネット(Industrial Internet)への考察

メディア等でドイツ発のインダストリー4.0が取り上げられるようになったことで、これらへどう対応していくのか各企業や各種団体においても議論されるようになってきている。しかし、それらの議論を見ていると違和感を感じることも多い。そこで、私なりにインダストリー4.0およびインダストリアル・インターネットに対しての考え方を整理してみたいと思う。あくまでも私見であり、また他にも論点はある中で、全てを書かずあえてとんがった形で書いたものであることをご理解頂いた上で目を通して頂ければと。


まず若手の方々には最初に理解してもらっておく必要があるのが、こういった動きは突然に始まったわけではないということである。古くは1980年代にGMが主導したMAPがある。工場内の機器を全てネットワークで結び生産性をあげようというコンセプトだ。
当時はCPUが高く、またネットワークなども未整備であり実現にかかるコストを上回るメリットが見いだせなかったために途中で消えてしまった(東芝のラップトップが数十万円、高位機種は100万円以上もしたような時代である)。その後CIMというコンセプトが一世風靡したのだがこれもまた中途半端なままいつのまにか消えてしまった。

90年代後半になりインターネットの普及とともにCPUのコストが劇的に下がり、ネットワーク環境は当たり前のものとなりつつあるなかで、ようやくながら従来からあったアイディアが時代にあった形で現実のものとなろうとしているのが現在であり、部分的には既に実現し始めている部分もたくさんある。


インダストリー4.0(Industry 4.0)

こちらは既に多くの書籍で書かれているように、ドイツが国家として進めている産業政策の一つである。いかにもドイツらしく物事を論理的に整理し、それらを実現していくための技術を明確にして一つずつ定義していこうという動きである。インダストリー4.0は4つのKey Conceptとそれらを実現するための8つの課題が整理されており、各課題に対するワーキンググループが組織的に課題解決(標準作りを含め)に取り組んでいるという形になっている。大局的に見れば、新しく必要となる技術のビジョンを描きそこから具体的な技術を開発していく試みである。その結果として、新しい産業機器の標準を生み出し、そのKey Technologyを特許等で抑えることによって将来にわたるドイツの製造業の競争優位性を確保していこうというものである。

インダストリアル・インターネット(Industrial Internet)

一方、アメリカで進めていると言われているインダストリアル・インターネットについて言えば、こちらは技術の積上げというよりも、マーケットドリブンな発想での活動ではないだろうか。また、特に国家として進めているというよりも、各企業において個々に進められているという色彩が強い。関連団体はあるが、IoTの標準を進めるための団体であり、新しい産業において必要となる技術全体を論理的に積み上げていこうというよりも、現在すでに実現しはじめている技術に関してお互いの企業がメリットを得られるように標準化を進めようというような限られた視点での活動のように見える。もちろんこれからの世の中はIoTの標準を抑えたものが世界のマーケットから収益を得るチャンスが増えるという目論見があってのことだとは思うが。実態はGEが抑えているマーケットでGEと協業していくことでベースを作り、他のマーケットにおいても標準を押させていこうという動きのようだ。ただし、個々の企業の利害関係により一体どこまでその標準が整備されていくのかについては少し疑問も残りそうである。B to Bの世界ではGE主体でも動いていけるかとは思うが、なにせB to C、C to CにおけるIoTではすでに相当な影響力を持っているし、従来の範囲を超えてビジネスを広げて行こうとしているに違いないAppleはそのリストに名前が見当たらない。


上記の2つの流れを受けて日本においても議論が盛んに行われているが、日本の議論はどちらかと言えば技術の積上げ型でありドイツに倣えと動いているような印象を受ける。
あくまでも主役は技術・HOWなのである。技術をどう標準化していけばグローバル競争の中で生き残れるのか?が発想の起点なのである。歴史的に標準で痛い目にあってきた日本としては、自前の標準をどう世界に普及させるか、もしくはどこまで世界の標準に合わせていくのかといった点が大きな争点になっているように見える。


企業活動の事例から見えてくるもの

私はアメリカ、なかでもGEの動きが企業としては一番正しい動きのように思える。マーケットドリブンでの活動だからである。
彼らのH/Pを見ればわかるように、自社のビジネスドメインについて分析をして、そこでどのようなビジネスチャンスがあるのかを見極めた上で技術開発を行い、ビジネスを展開していこうとしている。


航空機エンジンを提供しているGEにとって、航空機関連産業は影響力を及ぼせる上に収益上の重要な産業である。そこでどのようにお金が使われているのか、またその費目の中でGEが影響を与えられるものとしては何が大きいのか?と考えたわけである。


答えは燃料だった。燃料を1%節約できたとしたらどれくらいのインパクトがあるのか?H/Pでは15年間で約3兆円だそうである。
(なぜ15年間で計算しているのかはわからないのだが)GEのシェアが50%だとしても年間1000億円である。この成果を顧客とGEとで山分けしたと考えた場合GEには年間500億円の収入が見込めることになる。わずか1%の改善効果が500億円。
これを放っておく手はない。
次に考えることは、ではこの1%を実現するためにはどうすればよいのか?である。
今の時代ネットワークと、センサー、ビッグデータの分析を使えば何とかなるのではないか?とだれもが考える。具体的な技術はすでに社内にあるかもしれないし場合によっては外部から調達してもよい。いずれにしても年間500億円から差し引いて利益が出る金額で実現できるのであればビジネスとしては成立するのである。


アメリカのコンサルティング会社で働いた経験がある私としては、いかにもアメリカの経営者が考えそうなストーリーだなという印象である。達成すべきGOALが明確になっている。

さて、再度視点を日本に戻してみると、、、

インダストリー4.0を通して何を実現しようとしているのかが曖昧に見えないだろうか?技術標準を取ることで売り上げを伸ばす?ものづくりの優位性を維持していく程度で終わっていないだろうか、実際にどこのマーケットのどういう機器のシェアを何%あげ、それが幾らになるのか?といった議論はなかなか見えてこない。もちろんよい技術があればお金は後からついてくるというのもあるかと思うのだが、、、
また、インダストリー4.0に対応した機器を製造することで機器のシェアをあげて売り上げを増やすだけでなく、どのような付加価値を生み出そうとしているのであろうか?
GEの例でわかるように本来はこちらのほうが今回の産業革命を通して実現するメインの収益のはずであり、まず初めに考えなければならないことのはずなのだが。


インダストリー4.0の標準類が重要なのではなくCPUが安価になり、ネットワークが張り巡らされた環境になったところで顧客に対してどのような価値を提供できるのか、それらをどのように回収するのかを明確にし、その上で、ではそれらを技術的にどのように実現するのか?と考えることが重要であり正しい手順なのではないだろうか?
GEは業界標準を作ってからエンジン事業でのビジネスモデル改善を始めたわけではない。


ドイツのような規模の国であれば国としては意見が比較的にまとまりやすい。
一方中途半端に大きな日本は、同じ業界に複数社が存在し互いの利害関係を調整するのは難しい環境である。そんな環境の中でビジネスモデルさえ明らかになっていない中でお互いの利害関係を調整することで時間を無駄にするだけでなく、実際のビジネスでどれほどの効果を生むのかわからないような中途半端な標準を作るくらいであれば、GEなどに負けないように新しいビジネスモデルを試行し成功事例を作った上で、標準作りに着手してもよいのではないだろうか?もちろん同時並行でも構わないが。
(日本はどうも事例作りのスピードに危惧を覚える)
携帯電話のガラパゴス化はそのような考え方をしたから起きてしまったのではないか?
と叱責をお受けしそうであるが、携帯電話のガラパゴス化はまた別の話ではないかと思う。
そもそもアメリカにも携帯電話のOSの標準は幾つかあったはずだろうし、今もAndroidとiPhoneと統一化されているわけではない。だからと言ってiPhoneが世界で売れていないわけではない。世界市場を開拓できなかったのは違うところにも原因が存在するのは明らかであるし、今の流れを見ていると過去の失敗を繰り返さないようにとの活動の結果がまさに過去と同じ結果を生み出しかねず歴史が繰り返されようとしているように見えるのは気のせいだろうか。


代表取締役
清 威人

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