機械工場においては、工作機械やロボットが行う工程と人が行う工程が混在することが珍しくありません。 一方で、IoTやDXと名付けられたソリューションでは、データをリアルタイムに自動で収集し、それが場合によってはクラウド上に保存されAIによって分析が行われ、、、といったイメージが語られます。 しかし、そのようなイメージとロボットが動く傍らで人が金属部品に向かって手作業をしている、という実際の現場の間には大きなイメージのギャップが存在しているのではないでしょうか。 特にB2Bの世界においては仕様は千差万別で、そのバリエーションの吸収は人の作業によってなされている場合もあります。 そして、昔から使われている皆がなじみのある機械は簡単にはデータを吐き出せないといった事もありえます。 その為、例えば工程全体を何らかの切り口で見える化・データ化しようとした際、全部のデータを収集できない、データ収集の土台を整理するだけで多大な費用と時間が掛かる見積もりが出てきてしまう、という事も発生します。
もちろん、データを収集し、分析と施策立案を行うことで大きな効果を期待できるのは間違いありません。 しかし、貴重な生産技術者を大量に投入し、機器を新たに接続するだけでなく、どうやってデータを収集するのかを検討するような時間や費用の余裕がない場合もあるでしょう。 また、そもそも人手での作業についてどの様にデータに落とし込むのか、を検討することは必ずしも簡単な事ではありません。
その様な実態を踏まえた際、どの様なアプローチでIT化・DXを推進するかは非常に悩ましいテーマです。 最終的なゴールを描き全てを一気に実現する、というのがもちろん理想ですが、これは非常に大きな規模の取り組みとなります。 そこまでの確信が持てない、とか、この機械でしかできない加工がある、数年後に控える基幹システムの刷新と併せて、といった様々な事情もあるでしょう。 そういった場合は、部分的に出来るところから着手、という事にならざるを得ません。
ここで問題となるのは「では“どこ”からなのか?」という事でしょう。 対象とする機械・工程を絞り込む、というのがまず考えられるアプローチです。 これが実現すれば、対象となる機械についてのデータが手間なく自動で集まるようになります。 例えば、4Mについての記録を残す作業を自動化するといったIT化の観点でこれはまずは機械からデータを取るのではなく、人を使ってデータを集めるということで効果は上がるでしょう。 しかし、これでは工程を跨いだ工場全体の姿を見ることは出来ません。 リードタイムを短縮する、工場全体での在庫を圧縮する、不良の発生原因の追究をより効率的に行うといった事についてこのアプローチでは全体の流れを把握することが出来ず、十分な効果が出ない可能性もあります。
ここで、“どこ”を絞り込む視点を “何を収集するか”に変えてみるとどうなるでしょう? 例えば、上記のリードタイムの短縮に絞り込んだ場合、ロット毎の各工程の開始と終了タイミングさえあれば、「どの工程の間でどの位滞留しているか」が分かります。 それと生産計画を合わせて分析すれば、「計画通りに作業を行えていない工程はどこか」が、数量データも併せれば(通常生産計画に盛り込まれています)「どの工程の能力の実態は単位時間どのくらいか」も把握する事が可能です。 その際、どのようにデータを取得するかは問題ではありません。その一方で、工程全体を見渡したデータは必要となります。 本来は、“何を収集するか”から“どこを・どう”収集するかが決まるはずが、知らず知らずに発想が逆転していることは無いでしょうか?
機械製造業は長い歴史を持っています。 現場で行われている業務も多くの工夫が行われることで、場合によっては現場の実務担当者しか実態が分からないという状態になっている場合もあります。 そのようなケースでは、効果を生み出すためにどの様なデータを見ることが必要なのか、という事を企画段階でしっかりと見極める必要がある場合もあります。 それが行われないまま、「まずデータを取ってみよう」というアプローチで進んでしまうと、最悪の場合データを取ったが使えない・活用されないという事も起こり得ます。 実現までのストーリーがはっきりしないうちは、小さい仕組みでデータを取る事も一つの方法です。
また、実務に落とし込む、という観点では、現場の認識という課題がある事も珍しくありません。 新しい工作機械を入れたがスループットが大きくならない、良く見るとその後工程に仕掛在庫の山が。。。 生産計画や現場の動きのアンバランスがその原因です。 こういった、変わるべき実務について、担当の方がきちんと理解し、アクションまで落とし込めないと効果が生み出されることはありません。
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